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動物再生システム学研究室の論文が、Nature Cell Biology (2018) 20, 516–518に掲載されました。

タイトル: Dissecting the roles of miR-140 and its host gene.
(*Inui M, Mokuda S, Sato T, Tamano T, Takada S, *Asahara H)
リンク: https://www.nature.com/articles/s41556-018-0077-4

『ゲノム編集でmicroRNAとホスト遺伝子を”切り分ける”』

研究の背景
microRNA(miRNA)はタンパク質をコードしない短いRNAであり、mRNAと結合してタンパク質の形成を阻害することで様々な遺伝子の役割を制御します。miRNAは独立した転写単位として転写される場合と、タンパク質をコードする遺伝子のイントロンに位置してこの遺伝子(ホスト遺伝子と呼ばれます)と共に転写される場合がありますが、後者の場合にホスト遺伝子とmiRNAの機能がどのような関係にあるかは未解明です。
 本研究の共同研究者である東京医科歯科大学・浅原教授のグループは以前にmicroRNA-140 (miR-140)が頭蓋骨の形成に重要であると報告しましたが(1)、別のグループからmiR-140のホスト遺伝子WWP2も同じく頭蓋骨の形成に関わると報告されました(2)。いずれの報告でもES細胞での遺伝子改変を通じてノックアウトマウスを作成して頭蓋骨の短縮を観察しています。

本研究で明らかになったこと
 上のような背景を元に、我々はmiRNAとホスト遺伝子が同じ役割を持ち協調的に働くのかを検証するために、ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9を用いマウス受精卵のゲノムを改変することでmiR-140とWWP2のそれぞれ、そして両方同時にノックアウトしたマウスを作成しました。その結果、予想外にもWWP2のノックアウトでは期待された頭蓋骨の表現型が見られず、ダブルノックアウトマウスの表現型はmiR-140のノックアウトと同一でした(図1)。この原因を詳しく解析したところ、以前の論文でWWP2のノックアウトを作成した手法であるジーントラップ法では標的としたWWP2遺伝子だけでなくそのイントロンにあるmiR-140の発現も阻害してしまっていたことが明らかとなりました(図2)。
 本研究の結果、頭蓋骨の形成に重要な働きをしていたのはタンパク質をコードする遺伝子であるWWP2ではなくそのイントロンに存在するmiR-140であったことが示されたとともに、これまでに数多く作られて来たジーントラップ法によるノックアウトマウスの表現型についても注意深く検討する必要があることが示唆されました。
 これまでの方法ではmicroRNAとホスト遺伝子のようにゲノム上で近くに(重なって)存在する配列の機能を区別するのは困難でしたが、ゲノム編集法は非常に正確に効率よく遺伝子改変が行えるため今回のように『正確に切り分ける』解析が可能となりました。この手法は今後もより詳細な機能の解明に活躍していくことが期待されます。

<参考文献>
1. Miyaki, S. et al. MicroRNA-140 plays dual roles in both cartilage development and homeostasis. Genes Dev 24, 1173–1185 (2010).
2. Zou, W. et al. The E3 ubiquitin ligase Wwp2 regulates craniofacial development through mono-ubiquitylation of Goosecoid. Nat Cell Biol 13, 59–65 (2011).

 

図1の説明:ゲノム編集法で作成されたWWP2遺伝子、miR-140、及び両方のノックアウトマウスの頭蓋骨をマイクロCT撮影したもの。miR-140及びmiR-140/WWP2のノックアウトマウスで頭蓋骨の短縮が見られた。

 

図2の説明:遺伝子の機能を阻害する二つの方法の比較。上段のジーントラップ法では遺伝子抑制用配列の挿入によって挿入箇所の上流のタンパク質をコードする遺伝子だけでなく下流にあるマイクロRNAの機能にも影響が出る。下段のゲノム編集法では狙った箇所だけを標的にすることが出来る。

 

本論文のプレスリリースはこちら(明治大学プレスリリースサイト)

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