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植物分子生理学(川上)研究室で行われた国際共同研究の論文が、米国科学アカデミー発行の総合科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」に掲載されました。

生命科学科の川上直人教授、明治大学研究・知財戦略機構の大谷真彦博士研究員(川上研究室:博士後期課程修了生)らは、パリ-サクレー大学・フランス国立農業食料環境研究所のJean Colcombet博士、香川大学農学部の市村和也教授、国立遺伝学研究所の越水静助教との共同研究により、種子発芽の季節やタイミングを左右する「発芽の温度範囲」を決める仕組みに、細胞内情報伝達経路の一つ、“MKK3-MAPキナーゼカスケードが働くことを明らかにしました。

 

種子が発芽する季節やタイミングは、種子自身が持つ休眠の状態と環境の温度の組合せによって決まります。種子成熟後の時間経過に伴う休眠性の低下は、発芽可能な温度範囲の拡大をもたらし、環境の温度がこの範囲に収まる季節に発芽します。本来とは異なる季節に種子が発芽してしまうと、個体の成長や種子生産がダメージを受けてしまいます。このため、発芽の温度範囲を決める仕組みは、植物の生き残りにとって重要です。この研究では、MKK3-MAPキナーゼカスケードが種子の休眠状態と環境の温度の組み合せで活性化され、植物ホルモン作用の制御を介して発芽の温度範囲を広げ、休眠性の低下をもたらすことを明らかにしました。

 

MKK3-MAPキナーゼカスケードが働かないと、発芽の季節がずれ、種子が発芽できる期間も限定されてしまうでしょう。逆にこの経路が働き過ぎると、望まない季節に種子が発芽してしまうかもしれません。実際、この経路で働くMKK3の活性が強いコムギやオオムギ品種では、収穫前にも発芽しやすくなり、品質が劣化しやすいことが知られています。この研究の成果が、温暖化によって植物の生態がどうなるかを理解すること、そして安定した作物生産に繋がることを期待します。

 

本研究に携わり、著者となった川上研の現役学生、卒業生、修了生は下記の通りです。

大谷真彦:農学研究科博士後期課程修了、博士(農学)、明治大学 研究・知財戦略機構博士研究員

鄭李鵬:農学研究科博士後期課程修了、博士(農学)、合肥総合性国家科学中心能源研究院・中国科学技術大学博士研究員

橘夏希:農学研究科博士後期課程2

東城僚、大森涼葉:農学研究科博士前期課程修了

星拓実、佐野智広:農学部生命科学科卒業

 

論文タイトル:The MKK3 MAPK cascade integrates temperature and after-ripening signals to modulate seed germination

著者:Masahiko Otani , Ryo Tojo , Sarah Regnard , Lipeng Zheng , Takumi Hoshi , Suzuha Ohmori , Natsuki Tachibana , Tomohiro Sano , Shizuka Koshimizu , Kazuya Ichimura , Jean Colcombet , Naoto Kawakami

掲載雑誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS) 12128

DOI:10.1073/pnas.2404887121

公開日時:202475日  オンライン掲載

URL:https://doi.org/10.1073/pnas.2404887121

 

本論文のより詳しい解説(プレスリリース)はこちらをお読みください。

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