2012年10月5日に逝去された太田先生は動物生理学研究室を主宰され、数々の繁殖分野の研究を手掛けておられましたが、志し半ばで亡くなれました。本論文は、当時、精力的に進められていた仕事の一つで、遺伝子組換え技術で生理活性を持つ性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)を作製した成果をまとめたものです。
論文および補足データは下記のURLからダウンロードできます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrd/63/6/63_2017-091/_pdf/-char/en
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5735272/bin/jrd-63-605-s001.pdf
解説:性腺刺激ホルモンは、下垂体で合成・分泌されるLHとFSHの2種のホルモンの総称です(胎盤で合成される胎盤性ゴナドトロピンもある)。この2種のホルモンは互いに異なる機能を持ち、協調しながら性腺機能を調節している。下垂体の同じ細胞で合成されるが、両者は生化学的に良く似た性質を持つために純粋な分子として得る事が困難で、これまで夾雑物のあるものを使うことも多く、互いの効果が混り合ってしまうために、解釈に問題を生じることも多かった。また、調製毎に両者の割合(純度)が変る事から再現性にも問題があった。遺伝子組換え技術は、それぞれのホルモンを別々の細胞で大量に生産することを可能するものです。本論文では、性腺機能の調節の機序を解明する研究に資するために、ラット、マウス、マストミスの3種の齧歯類について、生理活性を持つLHとFSHの組換え体の作製を目指したものである。本論文は、太田先生の指導のもとに行なわれた角田さん(2006年修了)と田村さん(2009年修了)の修士論文をベースに、遺伝情報制御学研究室で追加構築されたラットとマストミスLHの発現ベクターを加えてまとめられたものです。生理活性については、データが足りないところもあるが、得られたデータはSupplementとして全ての情報を公開しています。また、クローン化した発現ベクターは、理化学研究所の遺伝子バンクに寄託し、制限をつけることなく世界の研究者が使用可能となり、太田先生のお仕事が未来に引き継がれていくことを願っております。
太田先生のご冥福を御祈りします。
(文責 加藤幸雄)